年金額の物価下落分据置き解消の深遠な影響

 このところ連日のように社会保障審議会における年金制度見直しの検討内容が報道されています。その一つに(これは制度自体の改正ということではありませんが)、平成12年度から3年度にわたり、本来なら物価の下落に応じて年金額を1.7%引き下げるべきところ特例で据え置かれた分を解消しようというものがあります(現在では物価スライド率と従前額改定率の違いから1.7%は2.5%に拡大しています)。

 じつは、これが解消されると、16年改正後の本来水準と、平成12年度改正による5%引下げ前の水準(従前額保障による水準)のどちらが高くなるかが、一概にはいえなくなるという複雑な問題が生じる可能性があります。

 現在、年金額には以下の3通りの水準があり、その結果を「丈比べ」して最も高いものが支給されています。

①平成16年改正による本来の水準

②平成12年改正による水準(1.7%の据置き分は解消、かつ5%引下げ前の従前額保障)

③平成6年改正水準現在(1.7%の下落分据置き、かつ5%引下げ前の従前額保障)

 現在は間違いなく③の額が最も高くなるのですが、③がなくなった場合、①と②を比べて必ずしも②のほうが高くなるとは限りません。

 というのは①と②に用いる再評価率が異なるからです。①に適用されるのは新再評価率(これは毎年賃金や物価の変動により決められます)、②に適用されるのは旧評価率(これは変動しません)です。②により計算した平均標準報酬(月)額と①により計算した平均標準報酬(月)額を比較して、後者が前者より5%以上高くなれば、①の水準が②を上回ることになります。

 で、その新旧の評価率を比較すると平成22年度ではほとんどの期間について新が旧を5%以上上回っています。23年度の数字では逆におおむね5%を下回っています。個々の受給者により対象となる期間が異なることもあり、①と②がどちらが高いかは実際に両者を計算してみなければわからないということになりそうです。さらに、②には、③の物価スライド率に該当するものとして、従前額改定率が乗じられるので話はさらにややこしくなります。

 実務上は、両者を比較して高いほうの額が支給されるのですから、日本年金機構の計算(システム設計)を信じれば問題はありませんが、FPの試験などではこれまでのように「旧乗率による従前額保障で求めなさい」という設問では現実とのかい離が生じるかもしれません。

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コメント: 1
  • #1

    有馬弘純 (木曜日, 15 12月 2011 16:39)

    驚きました。面倒なテーマを良く説きほどいて下さって、面目躍如ですね。
    ただし、改正された場合の影響は、ケース・バイ・ケースでの比較とあれば、一般論としての判断を示すことができず、解説者も歯がゆいですな。ところで、この課題はその後どのように展開しているのですか。ニュースを辿れない老年金受給者より。
    賢人の貴兄は独立されていたのですね。おめでとうございます。